不動産投資の規模拡大や節税を目指す場合、検討したいのが「法人化」という選択肢です。しかし「自分は法人化すべきなのか」「いくらかかるのか」「どんな会社を設立すればいいのか」など、疑問は尽きません。
本記事では、個人の所得税と法人税の税率が逆転する損益分岐点の具体的シミュレーションをはじめ、3つの法人化スキーム(管理委託・サブリース・所有方式)などを徹底比較します。
不動産投資の全体像から確認したい方は「不動産投資の種類とメリットとは。向いている人の特徴や成功させるコツも解説」をご覧ください。
- 法人化で税率引き下げ・所得分散・経費拡大・退職金・相続対策など7つのメリットがある
- 法人住民税・社会保険料・物件移転コスト・税理士費用など見落としがちなデメリットもある
- 法人設立は税率の単純比較だけでなく総合的なコストシミュレーションをしてから判断が必須
法人化の判断基準と損益分岐点
法人化を検討する上でのポイントは、「税率の逆転タイミング」を見極めることです。個人の所得税・住民税と法人税の税率を比較し、節税効果が法人の維持コストを上回る時期を正確に把握しましょう。
法人化とは何か
不動産投資における法人化とは、不動産賃貸業を営む法人を設立し、個人ではなく法人として物件を保有・運営する仕組みです。法人所有方式では、賃料収入は法人の収益となり、個人の所得税ではなく法人税等の課税対象になります。
法人化は単なる節税手段にとどまりません。役員報酬による所得分散や経費範囲の拡大、相続・事業承継対策など、資産形成を長期的に最適化するための経営戦略として機能します。
所得税と法人税の税率比較
個人と法人それぞれの税率を整理します。
個人(所得税+住民税)の税率
| 課税所得 | 所得税率 | 住民税 | 合計税率 |
|---|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 10% | 15% |
| 195万円超~330万円以下 | 10% | 10% | 20% |
| 330万円超~695万円以下 | 20% | 10% | 30% |
| 695万円超~900万円以下 | 23% | 10% | 33% |
| 900万円超~1,800万円以下 | 33% | 10% | 43% |
| 1,800万円超~4,000万円以下 | 40% | 10% | 50% |
| 4,000万円超 | 45% | 10% | 55% |
法人の実効税率(目安)
法人にかかる税金は「法人税+地方法人税+法人住民税+法人事業税」の合計で決まります。この合算した税率を「実効税率」と呼び、最終的な税負担の目安になります。
| 課税所得 | 法人税率 | 実効税率(目安) |
|---|---|---|
| 800万円以下(資本金1億円以下) | 15%(軽減税率) | 約21~23% |
| 800万円超 | 23.2% | 約30~34% |
課税所得が900万円を超えると、個人の所得税+住民税の合計税率(43%)が法人の実効税率(約30~34%)を上回ります。この「税率の逆転」が、法人化を検討する基本的な目安です。
損益分岐点のシミュレーション
損益分岐点のシミュレーションをもとに、個人と法人のどちらが得なのかを見てみましょう。
課税所得900万円のケース
給与所得600万円+不動産所得300万円、合計課税所得900万円のサラリーマン大家のケースで比較します。
個人のまま運営した場合、課税所得900万円に対する所得税は、速算表ベースで143万4,000円です。
住民税を90万円加えると、合計税負担は概算233万4,000円になります(※復興特別所得税は簡便化のため除いています)。
不動産所得300万円を法人に移すと、法人の課税所得は800万円以下のため軽減税率15%が適用されます。実効税率換算で法人の税負担は約63~70万円程度です。
ただし、法人化には設立・維持コストがかかり、法人住民税の均等割(年約7万円以上)は赤字でも課されます。こうしたランニングコストを差し引いた上で、正味の節税効果を判断してください。
課税所得1,800万円のケース
課税所得が1,800万円を超えると、個人の所得税率は40%、住民税と合計で50%に達します。法人の実効税率(約30~34%)との差は拡大し、法人化による節税メリットはさらに顕著です。
この規模になると、役員報酬を配偶者や子など家族に分散する「所得分散」を組み合わせることで、世帯全体の税負担をさらに大きく圧縮できます。
法人は個人の給与所得と不動産所得を別々に課税するため、それぞれに適用される税率が個人で一本化した場合よりも低くなるのが節税効果の主な要因です。
物件規模から見る判断目安
法人化の判断は「課税所得の水準」と「属性」の両方から考えることが重要です。
サラリーマン大家の場合
給与所得と不動産所得の合算が課税所得900万円を超えたタイミングが目安です。年収ベースでは1,500万円前後、専業の大家であれば年間の不動産所得が330万円以上になったときが、大まかな目安になります。
専業大家の場合
給与所得がないため、判断ラインは低くなります。不動産所得が330万円を超えると、所得税率20%と住民税10%の合計30%に対して法人税率のほうが低くなる可能性が高まります。
これから規模を拡大したい場合
初めから法人化しておけば、物件購入時の登記費用や不動産取得税を二重に支払う必要がありません。将来的に5棟・10室超を目指すなら、最初から法人として取得するほうが総コストを抑えられます。
一方で、不動産所得が330万円以下の専業大家の場合、個人の税率は20%、法人の実効税率は約23%であり、法人のほうが税率が高くなります。法人化のコストも加味すると、この水準では個人のまま運営するほうが有利です。
なお、法人化の検討は所得が基準に近づいてきた段階で早めに始めることをおすすめします。
税理士への相談は法人設立の直前ではなく、1~2年前から行うことで、物件の取得方法や資金計画も含めた最適な移行プランを設計しやすくなります。
3つの法人化スキーム比較
法人化には「管理委託方式」「サブリース方式」「法人所有方式」の3つのスキームがあります。節税効果・導入しやすさ・コストはそれぞれ大きく異なるため、自分の状況に合った方式を選ぶことが重要です。
管理委託方式の特徴
管理委託方式とは、物件の所有権を個人のまま維持しつつ、家賃の集金・入居者対応・清掃手配などの管理業務を設立した法人に委託するスキームです。
個人オーナーは管理料として法人に報酬を支払い、その分が個人の不動産所得から経費として差し引かれます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 節税効果 | 低い(管理料分のみ所得を移転) |
| 導入コスト | 低い(物件移転が不要) |
| 手続きの複雑さ | 低い |
| 管理業務の実態 | 必要(実態のない委託は税務否認リスクあり) |
最大のメリットは、不動産の所有権を移転しないため手続きや費用が発生しない点です。一方で節税効果は他スキームと比較して低く、管理料分しか個人の所得を圧縮できません。
なお、管理料の相場は家賃収入の3~8%程度が目安です。これを超えると税務調査で否認されるリスクがあるため、適正な範囲内で設定する必要があります。
サブリース方式の特徴
サブリース方式は、個人が所有する物件を設立した法人が一括で借り上げ(マスターリース)、法人が入居者に転貸するスキームです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 節税効果 | 中程度(差額分を法人に移転) |
| 導入コスト | 低~中(物件移転不要) |
| 手続きの複雑さ | 中(2種類の賃貸借契約が必要) |
| 空室リスク | 法人が負担 |
入居者から受け取る家賃と個人オーナーに支払う家賃の差額が法人の利益になります。空室が出ても法人が個人オーナーに一定の家賃を支払うため、法人が空室リスクを負う構造です。
このリスク負担が認められる分、管理委託方式より多くの利ザヤが適正とされ、10~20%程度の差額であれば妥当な範囲とされています。
管理委託方式より節税効果は高いものの、利益は家賃の20%前後にとどまるため、法人所有方式ほどの高い節税効果は期待できません。
サブリース契約の仕組みとリスクの詳細は「不動産投資のサブリースとは?仕組み・メリットから7つのリスクまで徹底解説」をご覧ください。
法人所有方式の特徴
法人所有方式とは、個人が所有する物件を設立した法人に売却し、法人名義へ移転するスキームです。家賃収入の100%が法人の収益になるため、3つの方式の中でもっとも節税効果が高くなります。
家賃収入を役員である自分や家族への役員報酬として支払うことで、所得を分散しながら経費を積み上げていける点が強みです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 節税効果 | 高い(収入100%を法人へ移転) |
| 導入コスト | 高い(登録免許税・不動産取得税など) |
| 手続きの複雑さ | 高い(売買契約・登記が必要) |
| 相続対策 | 有効(株式評価で資産評価額を圧縮できる) |
一方で、個人から法人へ物件を移転する際には登録免許税・不動産取得税・司法書士報酬などの初期コストが発生します。物件価格によっては移転コストだけで数百万円に達することもあります。
スキーム選びのポイント
3つのスキームを横断して比較すると、以下のように整理できます。
| 管理委託 | サブリース | 法人所有 | |
|---|---|---|---|
| 節税効果 | 小 | 中 | 大 |
| 導入しやすさ | 大 | 中 | 小 |
| 物件移転コスト | なし | なし | あり |
| 相続対策 | 弱い | 中程度 | 強い |
初めて法人化する方や、すでに個人で物件を複数保有している場合は、コストをかけずに始められる管理委託方式またはサブリース方式からのスタートが現実的です。
規模拡大や本格的な相続対策を視野に入れるなら、節税効果が最大になる法人所有方式を軸に、税理士と相談しながら移行タイミングを検討するとよいでしょう。
株式会社と合同会社の違い
法人化を決めたら、次に選ぶのが会社の形態です。不動産投資では実質的に「株式会社」か「合同会社」の二択になります。税制上の違いはほぼなく、コスト・手続きの違いで判断することがポイントです。
設立費用と手続きの違い
株式会社の設立には、定款の認証費用および登録免許税が必須であり、20万円以上の費用がかかります。一方で合同会社の設立には、定款の認証は不要であり、登録免許税は6万円です。
定款認証とは、作成した定款(会社のルールブック)に法的な問題がないかを公証人に確認してもらう手続きです。
株式会社にはこの手続きが義務づけられており、費用と時間がかかります。合同会社はこのプロセスが不要なため、設立までの期間も短く済みます。
ランニングコストにも差があります。株式会社は毎年の決算公告(会社の財務状況を官報などに掲載する義務)が法律で定められており、数万円程度のコストが毎年発生します。
合同会社は決算公告の義務がなく、この費用を抑えられます。
また役員の任期も異なります。株式会社の取締役は最長10年ごとに任期更新の登記が必要で、登録免許税として原則1万円(資本金1億円を超える場合は3万円)の費用がかかります。
合同会社に役員の任期規定はないため、この手続きコストも不要です。
信用力・融資への影響
「株式会社のほうが融資で有利では」と思われがちですが、不動産投資の実務では両者の差はほぼありません。
ローンの審査は個人(経営者)の属性や信用情報、不動産投資の実績が重要であり、会社の規模や形態などはあまり影響しません。
金融機関が融資審査で見るのは「法人の形態」ではなく、「決算書の内容・キャッシュフロー・代表者の属性」です。
対外的な信用力という観点では、「株式会社」のほうが一般的に高く、取引先から信頼を得やすい面はあります。ただし不動産賃貸業は入居者との取引が主体のため、この差が問題になるケースはほとんどありません。
利益配分と経営の柔軟性
両者の構造上の違いとして、利益分配の方法があります。
株式会社では、利益は持ち株比率に応じて分配されます。そのため家族を株主にして利益を分散させる場合、株の配分を事前に決める必要があります。
一方で合同会社は、出資比率と関係なく利益を配分することが可能です。会社の状況に合わせた柔軟な利益分配ができます。家族を「社員(出資者)」として迎え入れ、貢献度や状況に応じて報酬配分を変えやすいのは合同会社ならではの強みです。
不動産投資に向くのはどちらか
2つを総合的に比較すると、以下のとおりです。
| 比較項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 設立費用(目安) | 約20~25万円 | 約6~10万円 |
| 定款認証 | 必要 | 不要 |
| 決算公告 | 義務あり | 不要 |
| 役員の任期更新 | あり(最長10年) | なし |
| 利益配分の自由度 | 出資比率に従う | 自由に設定可 |
| 税制上の違い | なし | なし |
| 融資への影響 | ほぼ差なし | ほぼ差なし |
節税目的での法人化なら、合同会社でも十分といえます。コストや手間がかからず、不動産投資に悪い影響を与えるデメリットも見当たらないため、不動産投資の法人化には合同会社が向いているといえます。
将来的に事業規模を大きく拡大したい、外部から出資を募る可能性があるという場合は、株式会社として設立しておくほうが選択肢は広がります。
なお、合同会社から株式会社へ途中で変更することも可能です。まずはコストを抑えた合同会社でスタートし、規模拡大のタイミングで切り替えを検討するのも現実的な方法です。
法人化のメリット7選
法人化の効果は「税率の引き下げ」だけではありません。経費の拡大・退職金活用・相続対策など、複数のメリットが重なることで、長期的な資産形成に大きく貢献します。
① 所得税率を法人税率に切り替えて税率を下げる
個人の所得税は「超過累進課税」で、所得が増えるほど税率が上がる仕組みです。住民税(10%)と合わせると、課税所得が900万円を超えた時点で合計税率は43%に達します。
一方、法人の場合は法人税・法人事業税・法人住民税がかかるものの、税率は30%程度に抑えられています。課税所得800万円以下の中小法人には軽減税率(15%)も適用されるため、所得規模によっては個人と比べて税負担を大幅に下げられます。
② 役員報酬による所得分散で世帯全体の税額を圧縮する
法人化の強みの一つが「所得分散」です。法人の収益を自分や家族への役員報酬として支払うことで、一人に集中していた所得を分けることができます。
所得が二手に分かれることで一人あたりの課税所得額が下がり、個人所得税の税率も下がります。その結果、世帯の所得は変わらない一方で、トータルの税額を下げることができます。
例えば夫婦で運営している場合、配偶者に役員報酬を支払えば、その報酬は法人の経費になると同時に、配偶者側では「給与所得控除」(収入に応じて最低55万円~最大195万円)が自動的に適用されます。
個人の不動産収入と比べ、実質的な課税対象額をさらに小さくできる点が大きな利点です。
③ 経費として計上できる範囲が広がる
個人で不動産投資をする場合、経費として認められるのは不動産事業に直接関係する費用のみです。一方、法人化するとその範囲が大幅に広がります。
法人化すると、役員報酬や一定の要件を満たす役員退職金など、個人では活用しにくい項目を損金算入できるため、経費計上の幅が広がります。
| 経費項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 役員報酬(自分・家族) | 不可 | 可 |
| 退職金積立 | 不可 | 支給時または額の確定時に損金算入可 |
| 生命保険料(法人契約) | 原則として必要経費にならず、生命保険料控除の対象となる場合がある | 条件次第で全額または一部計上可 |
| 出張旅費規程に基づく日当 | 不可 | 可 |
これらを適切に活用するだけで、毎年の法人課税所得を数十万~数百万円単位で圧縮できます。
なお、役員報酬は事業年度開始から3カ月以内に金額を確定しなければ、原則として経費計上が認められません。期中での変更は税務上の「定期同額給与」の要件を外れるリスクがあるため、年度初めに慎重に設定することが重要です。
④ 退職金を損金計上して節税する
法人化すると、将来自分や役員が退職する際の退職金について、株主総会等で金額が具体的に確定した事業年度、または実際に支払った事業年度に損金算入できます。個人事業主には退職という概念がなく、この制度は利用できません。
退職金は受け取る側(個人)にとっても税制上の優遇があります。退職所得の計算では「退職所得控除」が適用され、勤続年数が長いほど控除額が大きくなります。
長年法人を運営した代表者が退職する際に、まとまった報酬を受け取りながら税負担を抑えられる仕組みです。
役員が実務をしていなかったり、役員報酬や退職金が実務や責任に対して高額すぎたりすると、税務調査で経費として認められず、追徴課税を求められる可能性があります。適正な金額設定が前提になる点は押さえておきましょう。
⑤ 相続・事業承継がしやすくなる
不動産を個人で所有している場合、相続が発生すると不動産そのものが相続財産として評価されます。
法人では株式による評価となるため、条件を満たせば評価額を減らして相続対策の効果が期待できます。また、法人化で家族を役員にして役員報酬を支給するとオーナーの所得が減り、相続財産が圧縮できるため、相続税の節税が可能です。
さらに将来の相続人(子どもなど)を株主として法人に組み込んでおけば、株式という形で資産を段階的に移転できます。生前贈与として現金や不動産をそのまま移すより手続きが柔軟で、承継コストを抑えられる場合があります。
⑥ 欠損金(赤字)の繰越期間が10年に延びる
不動産投資では、初期の大規模修繕や空室長期化などで赤字になる年度もあります。この赤字を翌年以降の利益と相殺できる制度が「欠損金の繰越控除」です。
青色申告を行っている場合、個人事業の損失の繰越控除は3年間ですが、法人では最大10年間にわたって繰り越すことが可能です。初期投資の減価償却や運営初期の赤字を長期的にカバーでき、将来的な利益に対する税負担を軽減できます。
複数棟を保有し収益が安定するまでに数年かかるケースや、大きな修繕費が集中した年度の損失を長期で分散できる点は、個人にはないメリットといえます。
⑦ 融資枠の拡大が期待できる
法人化することで、金融機関からの融資に有利に働くケースがあります。理由は、法人には「決算書」という客観的な事業実績の証明があるためです。
個人の場合、融資の判断基準は「個人の信用力・給与所得・所有資産」に限られます。
法人では、それに加えて事業収支・キャッシュフロー・自己資本比率などが評価対象となるため、黒字決算を積み重ねることで融資枠の拡大につながります。
特にプロパーローンは審査は厳しいものの、条件が整えば有利な金利・大きな融資枠を引き出せるため、規模拡大を目指す投資家にとって有用です。
法人化のデメリットと注意点
法人化にはメリットが多い反面、設立・維持にかかるコストや税制上の落とし穴も存在します。これらを正しく把握しないまま法人化すると、節税どころか手残りが減るリスクがあります。
設立・維持にかかる費用
設立時の初期費用
株式会社として設立する場合は25万円前後、合同会社として設立する場合は10万円前後の費用がかかります。これに加えて、法人口座の開設手数料や会社印鑑の作成費用(3~5万円程度)も別途発生します。
税理士報酬・決算コスト
法人の税務申告は個人の確定申告より格段に複雑なため、多くの場合、税理士との顧問契約が必要になります。税理士への報酬は年間約30~50万円程度が目安です。小規模な法人であっても、記帳代行・決算申告・顧問料を合わせると毎年30万円以上のコストが固定的に発生します。
赤字でも法人住民税がかかる
個人の場合、所得がゼロや赤字であれば所得税・住民税は発生しません。ところが法人には、赤字でも必ず課税される税金があります。
法人住民税は「法人税割」と「均等割」で構成されており、業績が赤字であっても毎年7万円程度の住民税均等割を納める必要があります。
均等割とは、法人の規模や所在地によって一律に課される税金のことで、利益の多寡に関係なく発生します。空室が続いて不動産収入がゼロの年でも、この7万円は確実に出ていきます。
社会保険料の負担が増える
法人を設立して役員報酬を受け取ると、健康保険・厚生年金への加入義務が生じます。
法人の負担分と役員個人の負担分を合わせると、社会保険料は役員報酬の3割弱となるため、負担は大きくなります。例えば月額50万円の役員報酬を設定した場合、法人と個人の合計負担額は毎月10万円以上になる計算です。
専業大家として個人事業主だった方の場合、国民健康保険に比べて保険料が上がるケースもあるため、社会保険料込みで手残りが増えるかどうかを必ずシミュレーションする必要があります。
決算・会計処理が複雑になる
法人化すると、個人の確定申告より格段に複雑な決算処理が必要になります。複式簿記による帳簿作成・法人税申告書の作成・消費税の申告など、処理すべき書類が大幅に増えます。
多くの場合は税理士に委託しますが、それでも経営者自身が数字を理解していないと適切な意思決定ができません。決算書の読み方や基本的な税務知識などは、最低限押さえておきましょう。
物件移転時の税負担に注意する
すでに個人で物件を保有している場合、法人所有方式に切り替える際には物件を「個人→法人へ売却」する手続きが必要です。
個人側では不動産の売却を行ったことになるため、売却益が生じれば譲渡所得税・住民税の負担が必要になります。法人側では、法人名義にするための登記費用や、不動産を購入したことに対する不動産取得税の負担が発生します。
物件価格や売却時の含み益の大きさによっては、この移転コストだけで数百万円に達することもあります。法人化による節税効果とこの移転コストを比較し、何年で回収できるかを試算することが重要です。
不動産取得税の仕組みと軽減措置の詳細は「不動産取得税の納税通知書はいつ届く?届かない3つの理由・支払期限・軽減措置」をご覧ください。
5年超の長期保有物件を売却すると税率が上がる
個人が5年超保有した不動産を売却すると、長期譲渡所得として20.315%の税率が適用されます。一方、法人が不動産を売却した場合は、こうした個人の長期譲渡所得の優遇税率はなく、売却益はほかの所得と合算して法人税等の課税対象になります。
法人の不動産売却益は所有期間にかかわらずほかの事業収益と合算して課税されるため、実効税率は30%前後になります。長期保有後に売却するつもりなら、個人保有のほうが税率面で有利になる点は見落としがちなデメリットです。
以上のデメリットを踏まえると、単純な所得税率と法人税率の差のみで法人化の是非を判断するのは危険です。
個人の不動産を法人に移転するコスト、将来の相続税への影響、社会保険料や法人住民税均等割などの運営コストを含め、複数の要素を加味した検討が必要です。
法人設立の流れと必要書類
「法人化したいが、何から手をつければよいか分からない」という方も多いでしょう。設立の手順は決まっているため、流れを把握しておけばスムーズに進められます。
設立手続き5つのステップ
STEP 1|基本事項を決める
まず会社設立に必要な基本情報を決めます。決める主な項目は次のとおりです。
- 会社名(商号)
- 本店所在地
- 事業目的(不動産賃貸業・不動産管理業など)
- 資本金の額
- 代表者・役員の氏名
- 決算月
会社名は商号調査(同一所在地で同一商号の会社が登記されていないか確認)を事前に行うことを推奨します。法務局のウェブサイトや登記ネットで確認できます。
STEP 2|定款を作成する
定款(ていかん)とは、会社の目的・組織・運営ルールを定めた「会社の憲法」に相当する文書です。
株式会社の場合は、定款の作成後に公証役場で公証人による認証が必要です。
認証手数料は資本金の額等に応じて3万円・4万円・5万円に区分され、一定の要件を満たす小規模な設立では1万5,000円となる場合があります。なお、電子定款を利用すれば印紙代4万円は不要です。
STEP 3|資本金を払い込む
定款認証が完了したら、代表者個人の銀行口座に資本金を払い込みます。法人口座は設立登記が完了してからでないと開設できないため、このタイミングでは個人口座に入金します。
払い込み後に通帳の表紙・口座情報ページ・入金が記帳されたページのコピーを取り、資本金が払い込まれたことを証明する「払込証明書」を作成します。この証明書は法務局への申請時に必要です。
STEP 4|法務局へ登記申請する
会社・法人は設立の登記をすることによって成立します。登記所(法務局)が当該会社の設立登記申請を受け付けた日が、会社の設立年月日です。
申請後は「登記完了予定日」が通知されます。完了予定日までに法務局から連絡がなければ、問題なく登記が完了したことになります。申請から登記完了まで、1~2週間程度かかるケースが一般的です。
STEP 5|各種届出を行う
登記完了後は、以下の届出を速やかに行います。
| 届出先 | 主な書類 |
|---|---|
| 税務署 | 法人設立届出書・青色申告の承認申請書 |
| 都道府県税事務所 | 法人設立届出書 |
| 市区町村 | 法人設立届出書 |
| 年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険の新規適用届 |
青色申告の承認申請書は、設立の日から3カ月を経過した日、または最初の事業年度終了日のうち、いずれか早い日の前日までに提出が必要です。提出が遅れると、その期は白色申告扱いになるため注意しましょう。
設立後に必要な届出一覧
| タイミング | やること |
|---|---|
| 登記完了後すぐ | 法人銀行口座の開設 |
| 設立日から2カ月以内 | 税務署への各種届出 |
| 設立後3カ月を経過する日の前日、または最初の事業年度終了日の前日 | 青色申告承認申請書の提出 |
| 役員報酬を決めた場合 | 事業年度開始から3カ月以内に金額を確定 |
| 従業員・役員を雇用する場合 | 社会保険・労働保険の加入手続き |
設立手続き全体を自分で行うことも可能ですが、定款作成や登記申請書類の不備を防ぐために、司法書士や税理士に依頼するのが一般的です。
専門家への依頼費用の目安は、5万~15万円程度です。法人化後の税務顧問も継続して依頼するケースが多いため、設立段階から付き合う税理士を選んでおくとスムーズです。
法人化の手間を抑えたいなら不動産クラウドファンディングがおすすめ
法人設立のコストや手続きに踏み出せない方、あるいは法人の余剰資金をさらに効率的に運用したい方には、不動産クラウドファンディングという選択肢があります。
少額から始められ、管理・運用はすべて事業者に一任できるため、入居者対応・修繕手配といった大家業の手間が一切不要です。
法人化を検討中の方は「まず不動産クラウドファンディングで不動産収益の感覚をつかみ、所得が法人化のタイミングに達したら切り替える」という使い方も有効です。
すでに法人化している投資家にとっても、法人口座で運用できるため、実物物件の購入タイミングを待つ間の余剰資金の運用先として活用できます。
不動産クラウドファンディングの仕組みや始め方については、「【初心者向け】不動産クラウドファンディングについて徹底解説」をご参照ください。
まとめ
不動産投資の法人化は、課税所得が900万円を超えたサラリーマン大家、または不動産所得が330万円を超えた専業大家が検討する目安になります。
法人化はメリットが多い反面、法人住民税の均等割・社会保険料の増加・物件移転コストなどのデメリットも見落とせません。
法人化の判断は、税率の単純比較だけでなく、これらのコストを含めた総合的なシミュレーションが必須です。
なお、法人設立は一度行うと解散に費用と手間がかかるため、「とりあえず法人を作ってみる」という判断は避けましょう。
自分の所得規模・家族構成・将来の投資計画を踏まえた上で、法人化のタイミングと方式を慎重に検討してみてください。
不動産投資法人化に関するよくある質問

